分かりやすい下肢静脈瘤のはなし

下肢静脈瘤は
どのような病気なのか

「下肢静脈瘤」は簡単に言いますと、足の表面の静脈がコブ状になる病気のことです。ですから、患者さん本人が自分で発見することは実に容易です。しかし、実はこのコブそのものが悪いものではないということが、一般にはほとんど知られていません。

要するにコブはあくまでも子分であって、別の部分に親分がいるのです。そのため、このようなタイプを治療するときは、その親分をやっつけないといけないのです。

ところが、親分はコブより上の方の表面からは見えないところにあるので、専門の医師は通常超音波診断装置(いわゆるエコー)を使って診断します。この部分での血液逆流防止弁(要するにフタ)が妊娠出産や長時間の立ち仕事などによる腹部からの圧力で壊れて、血液が雨漏りのように下の方へ落ちていくためにコブができるのですこの雨漏りを消し去ることが、まず下肢静脈瘤を治すもっとも大事な一歩なのです。

ですから、下肢静脈瘤をみただけで診断がつき、治し方がわかることはありません。きちんとした検査機器を用いた診断が非常に大事なのです。

子分(コブ)を取り除くだけでは解決になりません

子分(コブ)を取り除くだけでは解決になりません

下肢静脈瘤が
進行するとどうなるのか

「下肢静脈瘤」は、足の血液逆流を防止する静脈弁が壊れて、いわゆる「雨漏り」を生じてしまうという病気です。この雨漏り(いわゆる「親分」)によってできた部屋の中の水たまりがコブ(いわゆる「子分」)なので、本当に悪い部分(雨漏り部分)は外部からほとんどの場合見えません。ですから、通常は超音波(エコー)検査で調べることが少なくとも必要なのです。

さて、実際の雨漏り(最近ではあまり見られなくなりましたが)と同じように、下肢静脈瘤が発症すると、最初は少ししか雨漏りしていないので、部屋の中が湿っぽくなる程度(軽症)ですが、徐々に雨漏りがひどくなると部屋の中に水滴が落ちるようになり(中等度)、さらに悪化すると水滴が集まって水たまりをつくるまでになります(重症)。このまま放置すると最終的には部屋の構造が壊れてきて、とても住めるような家ではなくなるのです(皮膚潰瘍発生)。
このように、下肢静脈瘤としての始まりはかなり前のことで、最初は何とも症状を感じない(痛くもかゆくもない)状態だったものが、最終的には相当にひどい状態になることがあるということなのです。

みなさんにも、早期発見早期治療が下肢静脈瘤においても大事であることがわかっていただけたでしょうか。

下肢静脈瘤の進行は雨漏りの進行にソックリ!

下肢静脈瘤の進行は雨漏りの進行にソックリ!

下肢静脈瘤の
診断における検査の役割

下肢静脈瘤という疾患は、確かに足コブができる病気です。しかし、実はコブ(瘤)そのものは子分であり、瘤の原因となっている血液逆流が生じている部分(すなわち親分)が治療すべき本当の場所なのです。

ただし、検査により親分の重症度を知ることが治療方針を定めるのに実は必要なのです。
分かりやすく下肢静脈瘤を雨漏りに例えるならば、下肢静脈エコー検査では屋根のどこに雨漏りの原因があるのか、雨漏りがどのルートから部屋へ流れ込んでくるかを知ることはできます。

ところが、雨漏りの程度が分かりづらい欠点があり、治療が必要かの最終的な判断がしづらいことになります。そこで、静脈機能検査が必要になります。静脈専門の医療機関では、空気容積脈波検査(APG検査)光電脈波検査(PPG検査)などが針を刺す必要もなく痛みなく行える無侵襲診断法のひとつとして行われています。

これらの検査では、膝下に血液がどれくらいのスピードで貯まるのか、満タンになるのにどれくらいの時間がかかるのかなどが数値として測定できます。要するに、速く、短時間に血液が貯まると悪い状態であるということになります。重症ということを雨漏りで例えると、あっという間に雨が降り込んで部屋がすぐに水浸しになる状態ということになるわけです。
そうなると、部屋の修理(すなわち根本治療)が早急に必要ということになるわけです。

このように静脈機能検査もエコー検査とともに下肢静脈瘤の診断に必要なのです。

重症になる前に、お早めの検査をオススメします

重症になる前に、お早めの検査をオススメします

下肢静脈瘤の
治療について

下肢静脈瘤に罹患した状態は、屋根が壊れて雨漏りした状態に似ています。ですから治療する場合、雨漏りでびしょびしょになった部屋の中を掃除しても、屋根の修理が完了しないとしっかり治ったことにならないわけです。
患者さんにとっては、どうしてもびしょびしょになった部屋が気になりますが、本当に治さなければいけないのは部屋も含めた雨漏りルートなのです。

さて、手術的に治す場合、以前は「ストリッピング手術」という方法が主流でした。この手術方法は、雨漏りルートとなる部分を屋根の一部も含めて撤去しかつ部屋の掃除も同時に行うというイメージのものです。

しかし、これだけの治療を行うには屋根ごと外した上で行う大工事となってしまいます。すなわち、患者さんにとって負担がやや大きいことになるので、通常は入院で行うことが多いわけです。

ところが、最近では手術とは違う「血管内レーザー治療」という新しい治療法が開発され行われるようになりました。欧米では1990年代から行われるようになり、現在では米国では95%くらいが手術ではない「血管内レーザー治療」を中心とした血管内治療で治療されています。

一方日本でも2011年から保険適用となり全国的にも行われるようになってきた低侵襲治療です。低侵襲とは「患者さんの体への負担が軽い」ということですが、イメージとしてはストリッピング手術と違って、屋根を外さずに部屋の中から細長い管を雨漏りルートの下の小さな穴から挿入し、屋根の部分まで到達したらレーザーを用いてルート内を塞いでいくというものです。
すなわち小工事で治療が完了することになるわけです。

もちろん、部屋の中の状態により掃除も追加して行うことも必要な場合がありますが、早期発見早期治療となれば、雨漏りルートだけの治療で終了できるので、さらに負担が少なくなります。

したがって、雨漏りで部屋の中がびしょびしょになる前に専門医師による診断を受けることが、さらに重要になってきたということです。

今では小さな工事で負担を少なく修復ができます

今では小さな工事で負担を少なく修復ができます

下肢静脈瘤の
日帰り手術について

従来、下肢静脈瘤の手術は当たり前のように入院で行われていました。私がお医者さんになった頃(20年くらい前)、大学病院では半月~1か月くらい入院して「静脈抜去(ストリッピング手術)」を全身麻酔で行うことが普通でした。
この方法は、専用のワイヤーを用いて悪くなった静脈を根こそぎとってしまうというもので、傷も大きめのものがたくさん必要で患者さんへの負担は比較的多かったと思われます。

その後、手術方法が見直されストリッピング手術に取って代わって局所麻酔で部分的に静脈を結んだり、ちょっと切除したりする「高位結紮術」という方法を日帰りで行うという時期がやってきました。
さらに、瘤(コブ)だけ注射で硬化剤という薬を注入し固めて治す「硬化療法」と組み合わすことで、ほとんど切らずに入院せずに外来だけで治すという治療がこの時期全国でたくさん行われました。

ところが、この方法は極めて再発率が高くその後問題になり、多くの病院では治療成績が良い「静脈抜去術(ストリッピング手術)」を再度採用するようになります。しかし、これでは患者さんにとって入院が不要であるという、短時間に安く治せるというメリットのあった日帰り手術ではなくなってしまします。

そこで、今度は麻酔法を見直し局所麻酔による「静脈抜去術(ストリッピング手術)」を日帰りで行えるように工夫が施されたのです。この時、正確に治療する静脈の周囲だけに局所麻酔を行うために、手術中に超音波診断装置(いわゆるエコー)を用いるようになったのです。この方法は後ほど登場するほとんど切らずに治せる新しい治療法「血管内レーザー治療」の麻酔法にも応用され、今では下肢静脈瘤治療を担う専門医師の必須テクニックとなりました。
このエコーガイド下局所麻酔法を「TLA麻酔」といい、特に一人で行うためには片手にエコープローベを持ち、もう片手に注射針を持ちつつエコー画像をリアルタイムに見ながら麻酔を行うという高度なテクニックを要するものです。

このように、この20年くらいの間に下肢静脈瘤手術は大きく変化し、患者さんの様々な負担を軽くするべく進歩してきたわけですが、我々医師も医学の進歩について行くために学会などに出席し日々勉強していく必要があるのです。

下肢静脈瘤の日帰り手術について

下肢静脈瘤の日帰り手術について"